婚前契約の書き方と「書いて効くこと」
婚前契約について、弁護士相談前に確認したい範囲や残し方の希望を、2人で整理するテーマです。専門家に伝えたい不安や質問も準備メモにまとめます。
このテーマについて
婚前契約は「2人の合意があれば何でも書ける」と思われがちですが、実際には効力に限界がある(無効・減額され得る)条項があります。また、書いた合意も「どの形で残すか」によって証拠としての強さが変わります。
このテーマでは、契約の 「中身(範囲)」 と 「形(形式)」 の両方を一度に押さえます。
第1の軸: 何を書けば効くか(範囲)
書いても効かない可能性が高いもの
- 子どもの親権の指定: 親権は子どもの利益を最優先に裁判所が判断するため、夫婦間の事前合意では拘束できません。
- 養育費の極端な放棄: 「養育費は一切請求しない」といった合意は、子の権利を害するため無効と判断されやすい。
- 離婚原因の制限・拡張: 「3年別居までは離婚不可」「慰謝料100万円で離婚に応じさせる」など、法定の離婚事由を制限したり拡張したりする条項は無効になります。
- 扶養義務の完全否定: 法律上の扶養義務を契約で消滅させることはできません。
- 強制的な人格的義務: 「家事は妻が100%担う」「相手の家族とは一切会わない」「絶対に浮気しない」など、人格に強く干渉する条項は公序良俗1違反として無効か、あっても抑止力としての意味しか持ちません。
- 離婚そのものを禁止する条項: 離婚の自由は法律で保障されており、契約で奪うことはできません。
- 極端に高額な違約金: 「不倫したら1億円」のような相場から大きく外れた金額は、公序良俗違反として無効化されるか、裁判所で減額されます。
契約書で検討されることがある項目(有効性は個別事情で変わる)
- 財産分与の方法・割合
- 婚姻費用(生活費)の分担
- 不貞や浪費があった場合のペナルティ(金額が常識的な範囲なら)
- 結婚前の資産・贈与・相続財産の取り扱い
- 法定水準を超える(より子に有利な)養育費の取り決め
有効性は金額・合意経緯・公序良俗との関係など個別の事情で変わります。ここでは論点整理にとどめ、実際の条項化は弁護士にご相談ください。
判断能力にも注意
精神的に不安定な時期や、重大なライフイベント直後など、判断能力に疑義がある時期に結んだ契約は、後で無効を主張される可能性があります。第三者(専門家)の立ち会いや、時期をずらすといった配慮も大切です。
第2の軸: どの形で残すか(形式)
婚前契約は書面でなくとも口約束で成立する契約ですが、後で「言った/言わない」を避けるためには書面化が現実的です。書面化にも段階があります。
ここでの「強さ」は主に“証拠としての残り方(証拠力)”を指します。裁判なしで強制執行できる“執行力”、第三者にも主張できる“第三者対抗力”、合意の“任意性”は別の論点です。
| 形式 | 法的な強さ | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 自分たちで書く(私文書) | 当事者間では有効。証拠力は文書の作り方に依存 | ほぼ無料 |
| 専門家のリーガルチェック | 無効になりやすい条項を事前に潰せる | 11万〜30万円程度 |
| 公正証書 | 公証人が内容と意思能力を確認した上で作成。証拠力が大きい | 上記+公証役場手数料 11,000〜17,000円程度(財産額で変動) |
公正証書ならでは
- 公証人が本人確認と意思確認をするため、後で「あの時は判断能力がなかった」と争われにくい
- 原本は公証役場が20年保管。紛失・改ざんのリスクが低い
- 金銭給付について「執行認諾文言」を入れれば、不履行時に裁判なしで強制執行ができる
ただし公証人が確認するのは作成時の本人確認・意思確認や形式面であり、契約内容が将来どんな事情でも有効と認められることや、裁判で必ずその通りに認められることを保証するものではありません(公序良俗・錯誤・強迫などの争点は残ります)。
公正証書化の現実: 引き受けてもらえない条項もある
実は 婚前契約はそのまま公正証書化できるとは限りません。婚前契約は「離婚や別居などの具体的な事象がまだ起きていない」段階の合意なので、公証人によっては強制執行までを前提とした公正証書の作成を引き受けてくれない場合があります。
- 公正証書になりやすい条項: 財産分与の方法・婚姻費用の分担割合・婚前資産の管理方法など、金銭・財産に関する明確な取り決め
- 公正証書になりにくい条項: 「不貞があったら○○万円」のような将来事象を前提とする違約金、家事育児の分担割合、義実家との関わり方など人格的・将来的な約束ごと
- 強制執行までできるのは「金銭支払い義務」のみ: 公正証書にしても、家事育児や付き合い方など金銭以外の義務は強制執行できません
そのため、「公正証書 = 万能な強さ」ではないことを2人で理解した上で、どの条項を公的な強さで補強したいかを選ぶことが大切です。
「自作 + 部分的に公正証書化」というハイブリッド
実務的によく見られるのは、契約書全体は2人で作った私文書として残しつつ、「金銭給付に関する部分だけ別途公正証書化する」というハイブリッド構成です。 これなら2人の意思や生活感が反映された記録を保ちつつ、強制執行が必要になり得るお金まわりだけは公的な強さで補強できます。
2024年改正(2026年4月施行)で変わったこと
これまでは民法754条があり、「夫婦間でした契約は婚姻中いつでも、一方的に取り消すことができる」とされていました。これは婚前契約や婚後契約の安定性を大きく損なう仕組みでした。 2024年の民法改正により、この夫婦間契約の取消権は廃止されました(2026年4月1日施行済み)。これにより婚姻中の一方的な取消はできなくなり、合意の安定性は高まりました。ただし取消権が無くなっても契約が無条件で効くわけではなく、公序良俗・強迫・錯誤・意思能力の有無・子の利益・扶養義務といった一般的な制約は引き続き働きます。これにより、結婚後に状況に合わせて合意を作り直す 「婚後契約」 の選択肢も実務的に使いやすくなっています。
「効かなくても約束として残す」もアリ
法的効力がなくても、2人の話し合いの記録として残す価値はあります。「ここは法律上効かないけれど、お互いの気持ちとして書いておく」というスタンスを共有しておけば、後で揉めにくくなります。 契約を定期的に見直す習慣を作っておくと、無効と気づいた条項も含めて生活に合わせて整え直せます (定期的な話し合いの見直しルール のテーマも参考に)。
「夫婦財産契約(登記)」というさらに強い選択肢
ここまでは「2人の間で効く合意」が中心です。 事業承継や対外的な債権者リスクなど、第三者に対しても財産関係を主張したい場合は、登記を伴う「夫婦財産契約」という別制度があります。重い手続きと制約があるので、必要性が明確なケース向けです。詳しくは 夫婦財産契約を結ぶかどうか のテーマで扱います。
Footnotes
-
公序良俗とは、社会一般の道徳や秩序のことです。これに大きく反する内容の約束は、法律上そのままでは認められないことがある、と一般に説明されます。何がこれに当たるかは個別の事情で判断されるため、弁護士にご相談ください。 ↩
上から順番に答えていこう
「契約に書いても無効になる項目」があることは知っていた?
親権の指定、子の養育の条件など、当事者間の合意だけでは法的に効かない条項がある、という前提知識の有無。
「書いても効かない条項」と知ったら、どう向き合う?
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不貞・浪費などの「ペナルティ条項」は入れる?
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契約時の「判断能力」に不安がある場合の対処は?
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婚前契約はどの形で残す?
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かけられる予算の目安は?
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「強制執行」までの強さが必要?
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